2023/03/30口腔機能低下症とは?トレーニングや診断基準、治療方法を紹介
■口腔機能低下症とは
口腔機能低下症は、加齢だけでなく、疾患や障害など様々な要因によって、口腔の機能が複合的に低下している疾患のことをいいます。
何か一つの機能ではなく、複合的であるということがポイントです。お口の中の機能はとても複雑で様々な要素を持っています。
お口の持つ要素は大きく分けて以下の7つです。
①口腔衛生状態
②口腔乾燥
③咬合力
④舌口唇運動機能
⑤舌圧
⑥咀嚼機能
⑦嚥下機能
これらの機能低下を放置しておくと食べ物を噛んで飲み込むといった咀嚼障害、摂食嚥下障害など口腔の機能障害を引き起こし、また、低栄養やフレイル、サルコペニアを進展させるなど全身の健康を損なってしまいます。
このように予防することが重要な口腔機能低下症ですが、まだまだ認知度は高くありません。今後、こういった口腔機能が低下した場合は歯科医院に相談するという流れが一般化していくことが望ましいとされています。
■口腔機能低下症の診断基準とは
それでは、口腔機能低下症はどのように診断を行うのでしょうか。
上述のように要素がたくさんある口腔機能ですので、それぞれの能力をみる7つの検査項目があります。
一つずつその診断方法と診断基準をみていきましょう。
◆ロ腔衛生状熊不良
まずは口腔衛生状態をチェックします。
TCI=舌苔付着度が50%以上で口腔衛生状態不良となります。
舌苔とは、舌に付いた苔のような白い汚れです。この舌苔の付着度が高いほど、お口の中の細菌の繁殖もしやすくなり、誤嚥性肺炎の原因にもなりやすくなってしまいます。
舌表面を9つの区域に分割し、各区域に対して舌苔の付着程度を3段階(スコア 0、1、2)で評価し、合計スコアを算出します。TCI合計スコアが9点以上ならば口腔衛生状態不良と判定となります。
◆ロ腔乾燥
次に、お口の中の乾燥度合いをみます。
口腔乾燥は唾液量の計測をして判断します。
医療ガーゼを舌下部に置き、唾液がガーゼに浸み込ませます。
唾液が十分に分泌されていれば、ガーゼの重量は増加しますが、2分間で重量増加が2g以下の場合は口腔乾燥ありと評価します。
また、口腔水分計という機械を使って測定することもできます。測定値27.0未満で乾燥ありとなります。
唾液量が少なく、いわゆるドライマウスになってしまうと、むし歯や歯周病のリスクも高まり、口臭の原因にもなったりします。また食べ物を噛んだ後に咽せやすくなったり、飲み込みづらくなってしまいます。
◆咬合力低下
続いて咬合力をみます。
咬合力は、専用の機械を使って、数値が200N未満の場合、咬合力低下とみなします。
また、機械を使わず、今ある歯の本数で診断することもあります。歯が根っこだけになってしまっている残根状態や歯の揺れが強い動揺度3といわれる状態の歯を除いた歯の本数が20本未満の場合、咬合力低下状態と判断します。
咬合力が低下してしまうと、硬いものや大きいもの、繊維質のものが噛みづらくなり、食べられるものが限定的になってしまいます。
◆舌口唇運動機能低下
次に、舌口唇運動機能の低下をみます。
舌と口唇の巧緻性および運動速度で評価をします。
「パ」「タ」「カ」と、それぞれの音節を5秒間できるだけ早く発音させ、その発音回数を数え、1秒当たりの発音回数が6回未満で運動機能低下と評価します。
「パ」は口唇の運動機能、「タ」は舌先の運動機能、「カ」は舌の後方の運動機能がどうかをみることができます。
これらの運動機能が落ちると、言葉の発音が難しくなるだけでなく、食べこぼしが多くなったり、食べ物を喉に送り込むことが難しくなってしまったりします。
◆低舌圧
次に、舌圧をみていきます。
舌圧は専用の機械を使って計測をします。舌圧が30kPa 未満を低舌圧といいます。
舌圧が低下してしまうと、食べ物を上手く唾液と混ぜ合わせることができなかったり、喉に食べ物を送ることができず、飲み込みづらくなってしまったり、舌に力が入らないことにより、お口がポカンと開いてしまい、鼻呼吸ではなく口呼吸になってしまい、お口の乾燥につながったり、姿勢が悪くなったり、感染症になりやすくなったりと様々なことにつながりやすくなってしまいます。
◆咀嚼機能低下
次に、咀嚼機能をみていきます。
咀嚼機能の評価には、グルコセンサーという専用の機械とグミを使います。
2gのグミゼリーを20秒間咀嚼させた後、10mLの水と混ぜ合わせ、グミと水を濾過用メッシュ内に吐き出させ、メッシュを通過した溶液中に溶出されたグルコース濃度をグルコセンサーによって測定します。グルコース濃度が100mg/dL未満の場合を咀嚼機能低下と評価します。
咀嚼機能低下は、食べ物と唾液が混ぜ合わせられていなかったり、唾液の消化機能が落ちていたりする証拠です。
咀嚼機能が低下してしまうことにより、消化不良になったり、低栄養に直接的につながってしまったりします。
◆嚥下機能低下
嚥下機能低下は嚥下スクリーニング検査(EAT-10)または自記式質問票(聖隷式嚥下質問紙)のいずれかの方法で評価します。
EAT-10を用いた場合は、合計点数が3点以上の場合を嚥下機能低下とし、自記式質問表を用いた場合は、15項目のうちAの項目が3つ以上で嚥下機能低下とみなします。
嚥下とは、食べ物を認知してから、口に含み、噛んで唾液と混ぜ合わせ、食塊にして、喉に送り込み、食道に食べ物を持っていく一連の機能のことをいいます。
嚥下機能が落ちてしまうことこそ、食べ物を食べづらくなることにつながります。
以上の7つの検査項目のうち、3つ以上の検査で機能低下に当てはまる場合を口腔機能低下症と診断します。
■口腔機能低下症の検査の評価の種類とは
ここまで、一つずつ口腔機能低下症の検査項目と診断基準をお伝えしましたが、これらの7つの検査は3つの評価に分けて考えられています。
◆口腔内環境の評価
→口腔衛生状態、口腔乾燥
◆個別機能の評価
→咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧
◆総合機能の評価
→咀嚼機能低下、嚥下機能低下
■口腔機能低下症のトレーニングとは
口腔機能が低下することにより、日常生活でも様々な部分に支障が出てきてしまいます。
では、どのようにしたら口腔機能低下症を予防、もしくは悪化を防ぐできるのでしょうか?
◆舌圧トレーニング
一つは舌圧のトレーニングです。
舌圧を鍛える専門の器具を使って、舌の筋力や持久力をつけます。
特に、「ペコぱんだ」という商品は、硬さが5種類あり、軟らかめから始め、どんどん硬いものでトレーニングすることで段階的に舌圧をアップさせることができます。
◆あいうべ体操
あいうべ体操というトレーニング方法もあります。
舌圧を鍛えることと、お口ポカンを防止し、口呼吸を抑制することができます。
口を大きく「あ~」「い~」「う~」「べ~」と動かす体操です。
①“あ~”と言いながら口を大きく開く。
②“い~”と言いながら口を横に広げる。
③“う~”と言いながら口をすぼめる。
④“べ~”で舌を思い切り前に出す。
①~④までを1セットとし、これを大きな動きをしながら,ゆっくり10回程度繰り返します。
運動ですから、できるだけ大げさに行った方が効果的です。
一度に行うのは10セット程度で、1日30セット程度を目安に行います。
他にも「パタカラ体操」といって、
それぞれの音節をできるだけ早く発音する体操や、
神奈川県が推奨する「グー・パー・ぐるぐる・ごっくん・べー体操」というものも効果的です。
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/37565/okuchi_no_kenkoutaisou_new.pdf
起床後やお食事前に行って血流をよくしてから、食事をすることで、口周りが動きやすくなったり、消化促進も期待できます。
実際にトレーニングをすることで、舌圧や咀嚼機能が改善した報告もあります。
ぜひチャレンジしてみてくださいね!
■ロ腔機能低下症の治療方法とは
歯科医院で治療を受けることも口腔機能低下症の改善につながります。
主に以下のような歯科医院の治療で咬める歯を増やすことにより、咬合力を補うことができます。
◆ブリッジの治療
ブリッジとは、両隣の歯を支持として使い、欠損した所を補う被せ物のことです。
ブリッジの長所は、入れ歯のように取り外しはしないため、違和感が少なく、 治療自体はシンプルである事です。逆にブリッジの短所は、支持として用いる歯は削る必要があることと力学的に負担がかかることです。
◆インプラントの治療
インプラントとは、骨の中に人工の歯根を植え込んで、そこに被せ物を入れて補う物です。
インプラントの最大の利点は、咬合力をしっかり支える事ができることです。他の歯の負荷を減らし、結果的に今残っている他の自分の歯の保存にも繋がります。そのため、奥歯が喪失し、噛めない、噛むところが無くなった症例にとても有効です。
しかし欠点としては、保険適用ではないため、比較的治療費が高額であること、そして被せ物が入るまで期間を要することがあります。
ブリッジもインプラントもそれぞれメリットデメリットがありますが、自分に合った治療法を歯医者さんに相談しながら見極めることが大切です。
■まとめ
今回は、昨今話題の口腔機能低下症についてご紹介しました。
お口の中の機能は複雑だからこそ、多方面のアプローチで予防していく必要があります。
いつまでも美味しくお食事を楽しむためにも、早めに診断し、予防していくことが大切です。
うえの歯科医院では、口腔機能低下症を診断できるだけでなく、歯科的な観点、そして管理栄養士の観点からも、口腔機能をアップさせるサポートをしております。
ぜひ気になる方はご相談ください。